ギルフォードと創造性テスト:現代創造性研究の源流 その1 奥正廣

ギルフォードと創造性テスト:現代創造性研究の源流 その1

現代の創造性研究は、ギルフォード(Guilford,J.P.:1897-1987)の1950年の米国心理学会会長の就任演説[1]に始まるといわれる。彼は、第2次大戦中、心理計量学者として軍人の能力測定に携わり、知能テスト(IQ)ではリーダーシップ能力や革新能力は予測できないことを学んだ。そこでIQとは異なった、有能な人材を予測できるテストを作成するために創造性研究が必要であると唱えた。彼の基本的考えは、創造的/非創造的人物群の諸特性を比較して、両者を分離できる特性を抽出することであった。

その講演で彼は仮説的に、創造的能力特性として、アイデアの流暢さ、アイデアの独自性、構えの柔軟性、統合能力、分析能力、問題再組織化(再定義能力)、概念構造の複雑度、評価能力を提示し、また創造的人格特性として問題に対する感受性を提案し、しかもその多くについて可能なテスト例を示し、その分析法の見通しも示した(*1)。その例示と見通し(いわばパラダイムの提示)が創造性研究への新規参入を促した主要因の1つであろう。もう1つの参入刺激は、原子爆弾開発競争やスプートニク・ショック等に象徴される米ソ冷戦を背景にした人材発掘研究に対する(軍を代表とする)米国政府の資金援助にあった。

その源流の中心は創造的人格特性や(IQテストと異なる)創造性テストの研究であった。後者に関しては、のちに彼が、知能の因子分析研究に基づいて提案した“知性の構造(Structure-of-Intellect:SIまたはSOI)”モデルの操作(思考)の5(6)カテゴリー(*2)のうち発散的生産がもっとも創造性に関係すると指摘したことにより、発散(的)思考(Divergent Thinking:DT)テスト≒創造性テストのような発展を遂げた。

これらの潮流は、1980年代以降、研究生産性の停滞によって徐々に研究の主流ではなくなっていった(*3)。実際には講演でも、彼は、①創造性テストの有効性はそれと現実の創造性発揮との関連を確認しなければない、②また現実場面での創造的生産は能力よりも気質や動機づけ(興味や態度)特性がより強く影響するかもしれない、とも指摘していた。①に関して、その後両者の関連(相関)の高くないことが一貫して確かめられてきた(*4)。②に関しては内発的動機づけ研究の展開がある。

[注]
*1 彼は、これらのテストの解答データを収集しそれらをまとめて因子分析すれば、創造的能力諸特性(因子)が特定できると考えた。なお因子分析は測定変数の変動が正規分布することを前提として、抽出される因子数を事前に仮定して計算される。したがって結果の妥当性はそれらに依存する。
*2 知性の操作(operation)の側面は、初期に認知・記憶・発散的生産・収束的生産・評価の5カテゴリーであったが、後に記憶が記録と保持に分けられ6カテゴリーになった。ちなみに彼は知性の他の側面として内容(content)と産物(product)を取り出し、前者は図的・象徴的・意味的・行動的の4カテゴリー、後者は単位・集合・関係・システム・変換・含意の6カテゴリーとした。SOIモデルはそれらの3次元構造(直方体)として表現された。
*3 創造性テストの精緻化や多様化は進んだが、それによって創造性とは何かの理解や創造性発揮のメカニズムの解明が進んだわけではないし、現実の創造性発揮との関連も強くないので有用性も高まらなかった。また創造性概念が社会改革運動や人間解放運動(マズローの自己実現等)と結びつくとともに、国家的支援(資金援助)も希薄化していった。
(Feldman,David H., Csikszentmihalyi,M. & Gardner,H.(1994). A framework for the study of creativity.  In Feldman,D.H., Csikszentmihalyi,M. & Gardner,H. Changing the World (pp.1-45). Westport, Praeger.)
*4 これは能力の領域特殊性(domain specificity)研究や多重知能理論(Gardner,H.)などとも関連するだろう。
(Sawyer,R.K.(2012). Defining creativity through assessment. In Sawyer,R.K. Explaining Creativity(2nd edition). ch.3(pp.37-62). Oxford U.P.)

[文献]

  • Guilford,J.P.(1950). Creativity. American Psychologist, 5,444-454.

(奥正廣)