チクセントミハイと問題発見指向:現代創造性研究の源流 その2

チクセントミハイと問題発見指向:現代創造性研究の源流 その2

チクセントミハイ(Csikszentmihalyi,Mihaly: 1934- )は、1960年代にゲツェルスらと、画学生が創造的芸術家に成長する条件に関する長期縦断研究を開始した。被験者の3・4年次の画学生31名は、1人ずつスタジオに招かれて、テーブルに置かれた複数の静物を見せられ、それらから描きたい物をいくつか選び、他方のテーブルで自由に(静物を無視しても抽象画でもなんでもよいことを強調)絵を描くように要求された。描く過程を記録し、後に“発見指向(discovery-orientation)”の程度(与えられた静物やその配置から独立に、自分で独自に絵のテーマを構成する程度)を判定した。他方で、本人が完成したと判断した絵を、複数の社会的に認められた画家と画教師に評価してもらった。

その結果、“発見指向”の画学生が描いた絵は、“提示された問題の解決指向”の画学生の描いた絵よりも、独創性と美的価値でずっと高く評価された。一方両者の絵を描く技能(craftsmanship)には差がなかった。

被験者のその後の追跡縦断研究まで含めての結果をまとめると、問題発見により多くの時間とエネルギーを注ぐ芸術家の方が、より美的質と独自性に優れた完成作品を産み出し、しかもこの特性は18年後のその芸術家としての成功となお相関している、ということであった。

  発見指向は、問題発見(problem finding)や問題定式化(problem formulation)・問題構成(problem construction)、問題表現(problem representation)などと呼ばれることもある。自然科学ではすでに自然の中に存在する法則を見つけ出すイメージが強いから問題発見がふさわしいが、芸術領域の場合、問題は創作者が構成・表現するという方がふさわしいかもしれない。いずれにしても、問題を見つけられる人と見つけられない人がいて、その違いは問題発見や問題構成に時間とエネルギーを費やす程度が関係し、それが豊かな人ほど創造的である可能性の高い傾向があるということである。

これはある意味、問題と戯れつつ適切な問題定式化を探るプロセスであり、発散思考とも関係するが、評価・選択まで含むだろう。しかも当該問題領域での(領域特殊的な)発散思考であることにも注意が必要だ。

この発見指向と創造的芸術家としての成功との間の相関は、その7年後にも18年後にもなお有意であり、学生時代に実験で独自に問題を定式化して描画した人は、提示された問題として描画した人よりもずっと多くその作品が展示され、批評家や収集家の注目を浴びていた。

チクセントミハイらの発見は、問題発見により多くの時間とエネルギーを注ぐ芸術家の方が、より美的質と独自性に優れた完成作品を産み出し、しかもこの特性は18年後のその芸術家としての成功となお相関している、ということであった。

[文献]

  • Csikszentmihalyi,M. & Getzels,J.W.(1971). Discovery-oriented behavior and the originality of creative products:A study with artists. Journal of Personality and Social Psychology,1947-52.
  • Getzels,J.W. & Csikszentmihalyi,M.(1976). The Creative Vision: A longitudinal study of problem-finding in art. John Wiley & Sons.

(奥正廣)