メタ認知と心理療法

メタ認知と心理療法

メタ認知(metacognition)とは認知内容や活動についての認知のことで、いわば高次の認知機能である。メタ認知の研究では、これは下記のように、メタ認知的知識とメタ認知的活動に分類されている。

a.メタ認知的知識:人間の認知特性についての知識(a1)、課題についての知識(a2)、方略についての知識(a3)
b.メタ認知的活動:メタ認知的モニタリング(b1)、メタ認知的コントロール(b2)

要するに自己や他者、環境、課題についてよく知り(a)、それに基づいて自己と他者や環境、課題との関係を調整すること(b)で、柔軟で高度な問題解決を行うことができるのだから、両者は一体となった高度な問題解決能力の基板であろう。言い換えれば、自己や他者、環境、課題の繊細な気づき(a)と、それに基づく高次(創造的)の問題解決活動(b)の能力、ということになる。aはマインドフルネスともかなり重なりあうだろう。

不安やうつの伝統的認知療法は、信念(スキーマ)を変えることで、心理・行動まで変えようとしたが、短期にはうまく改善できても、長期的には違った形で問題のぶり返すことがよくあった。要するに、根本的改善・解決になっていない場合が多いということである。

結局、特定のスキーマは他のスキーマや(特定スキーマを含む)上位スキーマとのネットワークで成立しているのだから特定スキーマのみ改善しようとしても、ネットワーク全体での相互作用や安定性維持・復元が生じやすく難しいという理解に立てば、上位スキーマ(たとえば世界観・人生観スキーマ)へ働きかけるメタ認知的療法や、スキーマ間ネットワークへの気づきや、無執着・固着の打破・流動化へ導く(受動的集中という独特の注意訓練を含む)マインドフルネスに基いた認知療法(MBSRやMBCT等)は、東洋の仏教的・瞑想的伝統にも架橋する、新時代の認知療法と言えよう。

[文献]

  • 三宮真智子編著(2008)、メタ認知、北大路書房
  • ウェルズ(2012)、メタ認知療法、日本評論社(Wells,A.(2009). Metacognitive Therapy for Anxiety and Depression. Guilford.)
  • カバットジン,J.(2007)「マインドフルネス・ストレス低減法」北大路書房(Kabat-Zinn,J.(1990). Full Catastrophe Living. Dell.)
  • 熊野宏昭(2012)「新世代の認知行動療法」日本評論社

(奥正廣)