内発的動機づけとフロー:現代創造性研究の源流 その3(1)~(4)

内発的動機づけとフロー:現代創造性研究の源流 その3(1)~(4)

 (1)ディーシーの自己決定理論

内発的動機づけ(intrinsic motivation)とは、ある活動を、それ自体が興味深く、楽しく、満足をもたらすものだという理由で、それ自体のために行う動機づけをいう。対照的に、外発的動機づけ(extrinsic motivation)とは、お金、賞賛、監視や評価など外的報酬や外的制御要因のために活動を行う動機づけのことである。

内発/外発という動機づけの分類・対比・文脈が注目されるようになったのは、ハイダー(Heider,F.:1896-1988)に始まる帰属理論(因果推論)研究の中で、成功/失敗の原因推論のあり方が、その後の当人の感情・認知・行動への影響が注目されたことにある。その展開の中で、原因の所在[原因が内的/外的か]、安定性[原因が安定/不安定か]、統制可能性[原因が統制可能/不可能か]という原因特性が注目された。内発/外発という動機づけのカテゴリー化はこの流れと関連する。

ごく単純化していえば、原因の所在が結果に対する責任意識に関係し、安定性が将来見通しに関係し、統制可能性が問題解決計画策定に関係するということである。

帰属研究の中で「過度の正当化効果」の例として、「外的随伴物(外発的動機づけの原因刺激)はもともとの内発的動機づけを阻害する」ことが明らかになった。要するに、好きで楽しくやっていた活動でも外的随伴物(お金、褒章、評価、監視など)があると楽しくなくなってくるということである。これは典型的には外的随伴物がないと「やる気」が低下することを意味するが、たとえ外見的な「やる気」の程度は変わらなくても「やる気」の質が変化してしまうのである。

単純な作業・課題解決では、質よりも「やる気」の程度が問題なので、外的随伴物で「やる気」を起こさせても問題は少ない。しかし複雑で創造的な問題解決活動では「やる気」の質が大きく影響することが確かめられた。内発的なやる気(動機づけ)こそ創造性を促進することがわかってきたのである。

内発的動機づけと外発的動機づけに焦点を当てたメカニズムは、ディーシー(Deci,E.:1942-)らが認知的評価理論(Cognitive Evaluation Theory)、あるいは自己決定理論(Self-Determination Theory)して追求し明らかにしてきた。その過程で外的随伴物の影響の複雑さがわかり、それは結局、外的随伴物がどう感じ解釈されるか(制御的と帰属されるか否か)に依存することがわかってきた。そこで近年は、(外的に)制御された(Controlled)動機づけ/自律的(Autonomous)動機づけという対比が使われるようになってきた。

[文献]

  • 蘭千尋・外山みどり編(1991)「帰属過程の心理学」ナカニシヤ出版
  • デシ/フラスト(1999)「人を伸ばす力」新曜社(Deci,E.D. & Flaste,R.(1996). Why We Do What We Do: Understanding Self-Motivation. Penguin Books.)
  • Deci,E.L. & Ryan,R.M.(Eds.).(2002). Handbook of Self-Determination Research. Univ. of Rochester Press.

(奥正廣)

(2)チクセントミハイのフロー理論

(問題)発見指向でチクセントミハイらの画学生の長期縦断研究を紹介したが、実はその中で彼らは内発的動機づけの重要性も同時に発見していた。結局、一人前の画家になるには、いわゆる才能だけでなく、長年にわたる経済的・外的困窮や不遇に耐えて絵を描き続ける耐性・強靭さが前提になる。それは絵を描く喜び、欲求がそれほどまでに強いことを意味する。それが内発的動機づけであった。ただそれほどまでの強靭さを説明するには内発的動機づけという用語だけでは弱すぎる。もっと根源的な衝動概念が求められた。

この方向でのチクセントミハイの研究展開は、その根源的衝動の解明の方向に向かう。人をほとんど命がけの活動に没頭させる根源的要因は何か? 数百人の各領域の熟達者(芸術家、競技者、音楽家、チェスの名人、外科医等)へのインタビューを通して、彼は「フロー(flow)」経験という概念に到達する。

フローとは「1つの活動に深く没入しているので他の何ものも問題とならなくなる状態」「その経験自体が非常に楽しいので、純粋にそれをするということのために多くの時間や労力を費やすような状態」のことで、内発的動機づけ(内的経験)の最適状態(optimal state)である。

彼はフローの8つの特徴を述べた。

  1. 挑戦とスキルのバランス(C)
  2. 目標・心的報酬・即自的フィードバックの明確さ(C)
  3. 課題への完全な集中(C)
  4. 時間感覚・経験の変容(S)
  5. 経験は本質的にやりがいがありそれ自体終わりがある(S)
  6. 努力感がなく活動がたやすい感じ(S)
  7. 自意識が消失し活動と意識が融合した感じ(S)
  8. 課題全体を制御している感じ(S)

1~3はフローの成立条件で制御可能(Controllable:C)要因といえる。自己制御、コーチング、環境整備等でフローの出現確率を高めることは可能だということだ。4以降はフロー状態(State:S)の特徴(定義)といえよう。

[文献]

  • Getzels,J.W. & Csikszentmihalyi,M.(1976). The Creative Vision: A longitudinal study of problem-finding in art. John Wiley & Sons.
  • チクセントミハイ(1996)「フロー体験:喜びの現象学」世界思想社(Csikszentmihalyi,M.(1990). Flow. Harper Perennial.)
  • 今村浩明・浅川希洋志(編)(2003)「フロー理論の展開」世界思想社

(奥正廣)

(3)アマビルの4要因構成要素モデル

創造性と内発的動機づけの研究でもう一人忘れてはいけない人がいる。アマビル(Amabile,T.:1950-)で、次のような創造性の4要因モデルを提案し、その関係を厳密な実験的研究で実証した。

最初の図が4要因モデルで、創造的問題解決過程(上部)に影響する4要因の影響の仕方を示している。内発/外発という動機づけは発想や探索という多様な可能性を検討するステップに影響し、専門知識・技能は情報収集等の準備やテストに影響し、創造性に関する知識・技能はアイデア探索時に効いてくる。社会環境は概して動機づけに影響する。

次の図が多様な実験から実証された影響関係で、+は正の影響を、-は負の影響を示す。   表は内発性・自律性支援的か否かの社会的環境の特徴対比を示している。

創造過程の全体像:構成要素モデル
創造過程への影響:動機づけ関連
創造性への社会環境的影響要因図

[文献]

  • Amabile,T.M.(1996). Creativity in Context. Boulder,CL:Westview.

(奥正廣)

(4)まとめ

内発動機づけとフローに関する今までの研究結果をまとめると次のようになる。

  1. 一般に、内発的動機づけは創造性を促進する。外発的動機づけ(外的原因に由来する動機づけ)は、内発的動機づけを阻害することで創造性を阻害する。
  2. 内発的動機づけは、有能感ばかりでなく、自己決定感あるいは自律感に支えられ、内的に維持・強化される。外発的動機づけは、外的随伴物(金銭、地位、名声、競争、評価、契約、監視、期限などの外的な報酬や制約の認知)がなくなると低下する。
  3. 内発的動機づけはフローという深い喜びを伴った経験をもたらしうる。外発的動機づけはフローをもたらしにくい。
  4. 内発的動機づけもフロー経験も特定の心的能力の発達はもたらすが、それは、直接、人格的成長あるいは社会的貢献を保証するものではない。
  5. 通常の(非シナージー的)外発的動機づけは、その人を制御するために外的随伴物を与えるが、自分の活動状態や結果の情報を提供したり、活動を助ける資源の役割を果たしたりすると認知されるシナージー的外発的動機づけは、もともとの強い内発的動機づけを支援し、創造性を促進しうる。

この結果を図式化したのが次の図である。

内発的動機づけ関連メカニズム

さて、内発的動機づけにもあいまいなところがある。お金を貯めること、他者の賞賛を得ることに本来的喜びを感じる人にとって、それを求める行動は内発的なのだろうか、外発的なのだろうか?

その微妙なところが1と5の制御的/シナージー的外発的動機づけの違いである。外見的には同じ外的随伴物でも創造性発揮の阻害要因になったり支援・促進要因になったりする。つまり受け手が外的随伴物をどう認知・解釈(帰属)するかにも依存する。

シナージー的(相乗的)になるのは、①もととも内発的動機づけが強く明確で、②そのためその認知・評価が外的随伴物によっても揺らがず、しかも、③その外的随伴物がもともとの内発的動機づけを支援・促進する刺激・チャンスと解釈できる、という場合であろう。

この実現を強める工夫は種々考えられる。例えば、(a)自己決定の自覚・外在化(文書誓約・公開等)、(b)外的随伴物の非制御的and/or 情報的(informational)・可能性実現的(enabling)意味の顕在化・伝達、(c)自己の創造的解釈能力の育成、などである。

[文献]

  • Amabile,T.M.(1996). Creativity in Context. Boulder,CL:Westview.
  • チクセントミハイ(1996)「フロー体験:喜びの現象学」世界思想社

(奥正廣)