10年ルール(10-year rule)
多くの専門技能の領域で、プロフェッショナルとして1人前になるためには10年程度の集中的な修業が必要になるということ。学習時間でいうと週5日、4時間/日の集中訓練を計1万時間行うことに相当する。
実質的な修業時間は1万時間の方だと考えられる。教育制度や修業・徒弟制度が変われば10年とはいえなくなるだろうから、1万時間ルールと言ったほうが的確であろう。。例えば早熟の天才やサバン症候群の特殊能力は極度の集中学習によって早期に1万時間以上の訓練をしてしまっているのかもしれない。
ただし単なる集中訓練をすればいいというわけではなく、継続した「熟考実践(よく考えられた実践・練習:deliberate practice)」が必要である。その条件は、①課題が明確で適度に難しいこと(挑戦と集中)、②実践結果・評価情報の迅速で明確なフィードバック、③繰り返しによる誤り修正やパフォーマンス向上(の実感)、である。
なお、情報処理の二重過程が明らかになり、AI(ディープラーニング)がチェス、将棋、囲碁のトッププロに勝てるようになって、スキル発達(心身の成長)のレディネスがあまり重要でなく最近生み出されたような、いわば“直感的能力が問われる”ゲームなどでは、1万時間ルールが適用されないかもしれない。たぶんそれはAIの機械学習と同じ学習メカニズムで、熟達法が確立しておらず、勝敗・成否が明確で、内省的経験・訓練が有効でなく、したがって人生経験が少なくゲームに没頭できる若者の方が有利かもしれない。そうだとすれば、サバンの特殊能力もこういうものかもしれない。
[文献]
- エリクソンほか(2016)「PEAK」文藝春秋(Ericsson,K.A. & Pool,R.(2016). Peak:How all of us can achieve extraordinary things. Bodley Head.)
- Ericsson,K.A.,Krampe,R.T. & Tesch-Romer,C.(1993). The role of deliberate practice in the acquisition of expert performance. Psychological Review, 100(3), 273-305.
(奥正廣)