類推(analogy)

類推(analogy)

まず問題解決とは何かの復習をすれば、問題とは、主体が、事態の現状(現実状態)と目標状態(理想状態)との間にギャップがあり、そのギャップは努力なし(自然的・自動的には)には解消しにくく、その状況は困ったことでありできればそのギャップを低減・解消したい、と感じている事態のことであり、問題解決とは、その問題の現状と目標のギャップを解消する方法を見出すこと(認知)、またはそれを実際に達成すること(行動)、である。

創造的問題解決とは、既知の問題解決(のレパートリー)を新規の問題解決に応用することが解釈することもできる。類推(analogy)とは、ターゲット(target)問題に、類似した過去の知識・ソース(source)を適用することである。言い換えると、ソースに関する深い理解を元に、類似していると推測できるターゲットに関する仮説やイメージを形成することである。その「類似性」には、単純化すると“属性”、”関係“、”目標“の3つのレベルがあると考えられる。属性の類似性とは外観,部分,属性等の表面的な類似、関係の類似性とは全体構造,関係性の類似、”目標“の類似性とは目的・目標の類似である。

創造的類推とは、結局、関係あるいは目標の新たな類似性の発見を意味すると考えられる。なぜなら、属性の類似は多くの人が気づくような表面的な類似性なので新規なものではありえないからである。一見関係性が見られないような対象間に独自な関係づけを見出すことが創造的類推と考えられ、それは関係の類似性か目標の類似性にしかないだろう。

類推過程とは、ターゲット理解⇒ソース検索⇒類似ソースの選択⇒ソースとターゲットの対応付け・写像(mapping)⇒対応関係をターゲットの解生成に適用、という過程を経ると考えられる。

類推研究の刺激問題として有名なのが“腫瘍問題”である。それは、健康な周囲の細胞を破壊せず、腫瘍のみを破壊するには弱い放射線をどう照射するかという問題で、もともと腫瘍問題は正解が難しいが、同じ数学的構造を持つ“要塞問題”を前もって解かせても正解があまり高まらないこと、言い換えれば類推の難しいことを明らかになった。要するに、関係や構造の類推は難しいのである。腫瘍問題になぜ類推が適用しにくいかは注目を浴び、多様な変形問題が作られ研究された。

類推(analogy)が可能であるためには、ターゲットとソースの(属性のように表面的でない)類似性に気づく必要がある。まず、目的・目標(標的の破壊)の類似ということがありえる。これにより意味的な類似性を感じられるだろう。また制約・関係性(構造)の類似ということもありえる。ここでは内部構造の類似性が感じられるだろう。両者がそろえば機能的に相互に非常によく似たものと判断されるので、ソース解のターゲットへの応用が容易になると考えられる。

異なる2種の知識の一方が他方に応用できるか否かも、両者の目的・目標の類似と知識構造の類似性に影響される。ただし両者の類似性は、問題の類似性自体だけでなく、その問題の類似性を感受・認知する主体(問題解決者)の特性(能力)にもよるわけである。それが有能な問題解決者か否かを分けることになるだろう。

以上のような研究の中で、類推による問題解決を理論化したのがホリオークとタガードだ。それは多重制約理論といい、ソース検索の影響因を考える。

まず問題に含まれる対象の“意味的類似”ということがある。要素が類似していれば、かなり表面的ではあるが類似性判断の要因になるだろう。さらに、問題中の対象が形成する“関係の一致(構造的一致)”ということがある。これは、(一般化された)問題のスキーマ(problem schema)が類似している、ということである。言い換えれば、ここでスキーマに基づく帰納(schema induction)が生じるだろう。腫瘍問題の例でいえば、「必要な力を分散した上で、それらを集中させて対象を破壊する」という一般化されたスキーマである。

また問題が同一目標をもつと“機能的・実際的(pragmatic)な類似性”として、ソース検索に影響を与えるだろう。

結局、創造的な類推とは、多くの人が気づかないような、2者(ベースとターゲット)間の関係・構造的類似や目的・目標の類似の発見あるいは構築に基づくと考えられる。

[文献]

  • カーニー(1989)「問題解決」海文堂
  • ホリオーク,K.J. & サガード,P.(1998)「アナロジーの力」新曜社(Holyoak,K.J. & Thagard,P. (1996). Mental Leaps. MIT Press.)

(奥正廣)