領域特殊性(domain specificity):創造性は領域特殊的か領域一般的か?
絵画・彫刻・数学・物理学等の多くの分野において、第一級の作品を残しているダビンチは、天才の誉れ高い。彼は万能のクリエーターとして、古今東西においてあがめられる存在である。彼の持つ、多領域における創造的な才能には敬服するが、彼は本当に万能のクリエーターであったのであろうか。もし万能のクリエーターがいるとすると、その領域における基本的事柄を習得すると、たちまちその領域において、高い創造性を発揮する。すなわち、その人にとって創造性は領域一般的であるのである。ダビンチが現在に生きていて、文学や音楽や科学等の基本的事柄を学ぶと、それらのすべての領域において彼は第一級の作品や成果を残せるだろうか? 検証することの出来ない問題であるが、おそらく”NO”であろう。
天才ではない普通の人々の創造性は、領域特殊的に機能するのか、あるいは領域一般的に機能するのであろうか。ベアー(John Baer)は小学生から大人を被験者にし、この問題を検証した。50人の8学年の中学生が詩、物語、数学的な等式と数学的な文章問題を作った。全ての解答の創造性は「専門家」によって評定された。すると4つの課題の創造性得点の間には、結びつきの程度を示す相関が認められなかった。この結果は、「創造性」という一般的な創造思考スキルが異なった課題の創造的成績に寄与しないことを意味する。中学生は、短い「言語流暢性創造性テスト」も受けた。2、4、5学年および大人を被験者として、追認研究が実施された。しかしさまざまな産出物の創造性評定間には、有意な相関は得られなかった。
詩と物語作成課題は「言語領域」に属し、数学的な等式と数学的な文章問題課題は「数学領域」に属すると考えられる。しかし、それぞれの領域における、相関がなかった。ベアーは以上の結果を、創造性は領域一般的に機能しないばかりか、領域特殊的にも機能せず、課題特殊的に機能する能力と結論している。
[文献]
- 弓野憲一(2014).創造性は領域特殊的か、それとも領域一般的か. 日本創造学会論文誌, 18, 1-22.
- Baer,J.(2016). Domain Specificity of Creativity. Academic Press.
- Sawyer,R.K.(2012). Explaining Creativity:The science of human innovation(2nd ed.). Oxford U.P.
(弓野憲一)