5つの心(five minds) 奥正廣

5つの心(five minds)

多重知能理論の提唱者ガードナー(Gardner,H:1943-)は、近年、良い仕事(good work)など倫理的な人間行動や社会問題に焦点をあてている。そのような流れの中にある著作で、21世紀社会を生きるのに必要で育成すべき主要な心(minds:心性、知力)を5つ取り上げている。多重知能理論では、知能の定義と条件を明確に規定し、最新の科学的知見に基づきそれを満たすもののみ慎重に取り出した。知能は現実の心的能力の構成要素(因子)といえるから、発達まで考慮すれば分離も可能である。しかし“現実の心”はそのような知能の複合として働くから複合的で、ある程度曖昧にならざるを得ない。ガードナー自身もそう述べている。しかし次の5つの心が重要であるという。

  1. 熟練した心:主要な学問や職業に必要とされる思考方法を使いこなす心。この心の育成には最低10年程度の集中した訓練・学習が必要だといわれる(10年(1万時間)ルール)。
  2. 統合する心:大量の情報の中から重要なものを選び出し、自己と他者双方に役立てられる形にまとめていく心。情報の集め方・まとめ方に一貫性が求められる。
  3. 創造する心:既存の知識を超えて、新しい課題や解決策を示し、既存の分野を広げたり新分野を開拓したりする心。新規でありかつしかるべき社会領域で評価され受け入れられる必要がある。
  4. 尊敬する心:個人や集団の間の差異に共感し、建設的に対応する心。経歴や地位、考え方の違いなどにとらわれず、個々人の個性や違いを尊重し、個々人を活かすような共同作業が求められる。
  5. 倫理的な心:働き手として、また市民としての自らの役割の特徴を抽象化してとらえる心。要するに「よき仕事」と「よき市民」とは何かという概念をもち、それを指針にして活動するような心。概念と行動が整合的な必要がある。

彼のいう「心」とは実際何なのだろうか。現実社会のあることを重要だと感じそれを実現しようと考える心の働きか。21世紀社会を生きる人びとに必須の重要なこと=価値が5つあるとしたわけだ。これはOECDのDeSeCoプロジェクトで提案された、21世紀を生きる人びとが必要とする3つのキー・コンピテンシーに対応する彼なりの概念化だと思う。専門教育との関連で、教養・一般教育あるいは人間教育に関心のある者として、このような概念化や議論は参考になる。

[文献]

  • ガードナー(2008)『知的な未来をつくる「五つの心」』ランダムハウス講談社(Gardner,H.(2006). Five Minds for the Future. Harvard Business School Press.)
  • ライチェン&サルガニク(編著)(2003)「キー・コンピテンシー」明石書店(Rychen,D.S. & Salganik,L.H.(2003). Key Competencies for a Successful Life and a Well-fuctioning Society. Hogrefe & Huber Publishers.)(奥正廣)

(奥正廣)