あたため(Incubation) 柴山盛生

あたため(Incubation)

歴史的には天才的な人物が人を驚かすほどの創造的なものを生み出したとき、不可思議な霊感の力によってそれを成し遂げたということが信じられていた。この現象について、1926年イギリスの研究者ワラスが、創造的な問題解決のプロセスとして科学的な説明を行った。それによれば、ある問題に関連する材料、知識を集める準備段階に続いて、問題の解決が袋小路に陥いる停滞の期間(あたため)を経て、突然インスピレーションや洞察が起こり、解決方法が見つかるというもので、認識の状態や論理的な操作の流れの中で、不意に問題の解決策が浮かんだ経験について記述するために使用した概念である。問題解決段階の不可解な現象について説明する点では重要な前進であったが、そのプロセスについては十分に説明されなかった。

その後の研究ではこの「あたため」について次のような理論が示されている。

  1. この期間には意識的な仕事は連続的ではなく断続的に行われる
  2. 問題解決の準備期間中に生じた疲労からの回復が行われている
  3. 精神的な状態が変化し時間が経つにつれて当初の戦略を忘れている
  4. 通常の反応が出尽くし、異常な反応が現れる
  5. 未解決の問題と関係する情報を探りながら、この期間中に問題解決に向けて周囲の出来事を取り入れようとしている。
  6. 自然発生的な周辺の出来事の中にある自分の知っているアイディアと知らないアイディアの間で連想を行っている
    「あたため」は室内の実験や歴史的な出来事の中に明確に存在する現象であるが、自律的な無意識のプロセスでこのような結果を引き起こすという信頼できる証拠は見つかっていない。また、様々な要因によって生じているが、意識して行っている創造的な作業の中で現れるもので、固定した作業の流れの中に現れない。

[文献]

  • Runco, M.A. & Pritzker, S.R. (ed.) (2011) Encyclopedia of Creativity

(柴山盛生)