セレンディピティ(Serendipity) 澤泉重一

セレンディピティ(Serendipity)

Serendipity は「思いがけないものを発見する才能」を意味するHorace Walpoleの造語ですが、Horace Man宛て19754年1月28日付け書簡とその返信のわずか一往復に用いられたこの言葉が世の中に広く定着した理由は、Serendippo王国の3人の王子の寓話に由来した面白さとWalpole が指摘した優れた含意にあります。旅に出た王子達がつぎつぎとふりかかる難問の解決策を「accidents とsagacityによっていつも発見していた」と解釈したWalpoleの指摘は独創的であり、かつ科学的考察を促す命題となっています。

この造語は、「発見」に関わる「才能」の存在を認識し概念化したこと、および、「発見」の要因を ‟accidents (偶然)” と ‟sagacity (聡明さ)” の二つに限定したことに意義があります。発見の才能を概念化したことは、その機能や向上方法への関心を促し、「発見」の要因が限定されたことは、その要因である「偶然」と「聡明さ」の役割と機能の考察へと研究が進められることにつながります。専門領域ごとに細分化が進み、ともすれば他の領域と共通する基底を見失しないがちな現在の社会において、「発見」という基本的独創性の生起を、異なる専門領域を超越した視点で考察する意義は大きく、広範囲な分野での応用展開が期待されることになります。

その一つは「偶然」が「発見」に際して機能する役割と作用です。知識の修得は「発見」のために通常は良い成果をもたらしますが、新説の発想や「発見」に気付くときには、まれには強い抑止作用となってこれらを阻害します。抑止作用は予測でない未知事象への無駄な行為を防ごうとする作用であり、前例のない事象への対応策の不十分さを予告するものです。ところが「偶然」は、「思い込みなどの何らかの間違い」によってこの強い抑止力を容易に突破してしまいます。成果はその都度、その事象によりますが、多くの場合は強い抑止力の妥当性が知識の正しさとして追認されることになります。ただし、この「偶然」が作用して「発見」に至る数少ない場合には、従来の知識を改める大きな成果へとつながることが期待できます。

他の一つは「聡明さ」が「発見」に際して機能する役割と作用について考察すると、なかでも複数の課題を明確にし、それらに関与する事象に気付く大切さが上げられます。このため、発見のアルゴリズムを構築できるCharles S. Peirce のアブダクション法の仮説立案につながる観察での発想の外化を習慣にすることにより、発見の向上度を確認することができます。

[文献]

  • 澤泉重一・片井修(共著)(2007)、「セレンディピティの探究」角川学芸出版

(澤泉重一)